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杉原家の玄関先で

カチャカチャ・・・


シャー・・・


・・・お嬢さまの誕生日だと言うのに・・・
『あの日』以来この家の空気が重いです・・・。


‥‥‥‥‥(ここから回想シーン)

『ふう・・・今夜も星が綺麗ですね〜』
2月14日、あの時私はバルコニーで天体観察をしていました。
お嬢さまはデート
旦那様と奥様も二人でお食事に行かれましたから
時間もあったんですよね。

ガサガサ・・・

あら?お客様が来た様です?
こんな時間に歩いてというのは変ですね?

『わざわざ送ってもらってすいません』
『そんな、こんなに暗いのに
 女の子を一人で帰らせるなんて出来ないよ』

なるほど嬢様達ですか。
確かにこんな時間に歩いて帰ってくるとすれば
お嬢さまか旦那さま達ぐらいしかありえませんね。

『今日もとても面白かったです。ありがとうございます。
 私なんかに時間を割いてくれて・・・』
『そんな、僕だってチョコを貰ったし・・・
 それに真奈美と一緒にいると心が和むし・・・それからえーっと・・・』

あらあら彼の顔が真っ赤です。何かあったのでしょうか?

『僕も・・真奈美の事、好きだから・・・』

お嬢さま・・・やっと自分の気持ちが言えたんですね。
私は嬉しいです・・・うるうる
しかし若いって良いですね〜
人目に付きそうな所でこんな恥ずかしい会話が出来るなんて

*注意1:杉原邸は森の中と言っても過言ではありません。
*注意2:そんなところでこんな時間に人がいると考える方がおかしいです。
*注意3:覗きおやめなさい

『嬉しい・・・』
『真奈美・・・』

どちらからともなく自然に二人が近づいていきます・・・これは!?
私がうろたえ始めるとほぼ同時に
お二人がキ、キ、キ、キスをしてしまいました!!

落ち着くのよ洋子!
二人とも高校生、キスぐらい当たり前じゃない!!

スーハー、スーハー


ふぅ・・・少しは落ち着きました・・・。


しかし・・・











長いです・・・(ポッ)





結局5分ほどそんな状態が続いてお二人とも自然に離れていきます。
なぜか二人とも口のあたりを拭っていますが。

これで終われば美しかったんですがラブコメの神様は甘くないようです。

『な、何をしてるんだね、真奈美・・・?』
『パ、パパ!?』

タイミングよく帰ってきましたね〜旦那さま。
心なしか声が上ずってますが・・・
奥様は何が面白いのか
頬に手を当てて『あらあら』と言った感じで微笑んでいます。
ですが一番うろたえてるのは彼のようです。
はっきり言って硬直してます。
まぁ、あれだけ激しいキスシーンを
相手方の親に見られたんですから当たり前ですけど。

『貴様〜!真奈美から離れんか〜!!』
『うわ〜!!』

旦那さまが咆哮と共に彼に突撃していき
軽いジャブを連続して撃ちこみます。
ですが彼もやるものでその全てを紙一重でかわしていきます。
それから・・・上段蹴り・・・しゃがんで回避
正拳突き・・・上半身だけひねって回避
正拳突きからの裏拳・・・腕でブロック
ローキック・・・後ろに飛んで回避
・・・・・・・etc
これだから男は・・・

『はぁはぁ・・・やるな若いの・・・
 だが私の真奈美に手を出した罪‥おぐぅ!!』

いつの間にやら奥様が旦那さまの後ろに廻りこんで
後頭部に一撃を与えています。

『まったく、いい年をして・・・すいませんね
 今日のことに関してはしっかりと言い聞かせますから
 安心して真奈美と交際を続けてくださいね』
『は、はい・・・わかりました・・・けど大丈夫ですか?』
『当たり前ですよ。私の娘が選んだ男性(ひと)ですから、信頼してますよ』
『ママ・・・ありがとう』
『(そーじゃなくてお父さん、白目むいてるんだけど・・・)』

流石奥様。良いことを言います。真奈美お嬢さまも嬉しそうです。

『それでは今夜はこれで、真奈美、帰ったら電話するから』
『はっ、はい。楽しみにしてます』
『おやすみなさい・・・あっ、それから』
『はい、なんでしょうか?』
『避妊はしっかりして下さいね。40代でおばあちゃんは嫌ですからね』
『まままままママ?何てこと言うのよ・・・!』

あらら、お二人とも真っ赤ですね〜。
彼に関してはそっぽ向いて頭までかいて。



‥‥‥‥‥(回想シーン終了)

はー、これで旦那さまの説得が上手くいってればよかったんですけどね〜。
あれから旦那さまは
『何処の馬ともしれん奴に真奈美をやれるかー』の一点張り。
それだけなら良いにしても
二人の妨害工作までし始めてしまいましたから・・・。
特に『何処の馬ともしれん奴に真奈美をやれるかー』
とおっしゃっているのに
白井坂高校杉原真奈美本人非公認FCの人間に
情報をリークしてしまった為に
お嬢さまの気が休む時がないらしく・・・
会話だって電話で1時間もできず・・・
最近お嬢さまに元気がありません。
一体どうしたらいいのでしょう・・・

「洋子さん」
「奥様、おはようございます」
「えぇ、おはよう・・・」

奥様もちょっと元気がありせん。

「お嬢さまの事ですか?」
「やっぱり判っちゃいますか?」
「えぇ・・・多分同じことを考えていますから」

ふー・・・とほぼ同時にため息をつく私達。

「せめて今日ぐらいは彼と二人っきりにさせてあげたいのに・・・」
「あら?旦那さまは家族水入らずで
 お食事に行くとおっしゃられましたが?」
「いいのよ、あれの事は放っておいても。
 重要なのは真奈美の方よ。
 同じ女の子ですもの、協力してあげたいわ」

本当に「同じこと」を考えていますね・・・
やっぱり女の子には女の子にしか判りません。

「けど今から彼を呼んでもこっちに着くのは早くて17:00・・・
一晩時間を貰えない限りあまり時間もないわね・・・」

いまは8:08・・・確かに多少誤差があるにしても結果はそれくらいか・・・

「彼が何かしらのリアクションさえとってくれれば良いんですけどね」

プルルルル・・・プルルルル・・・

あら電話のようです?
「私が出てきますね」
「はい、よろしく」

奥様に了承を頂いてから早足で受話器を取りに行きます。

「もしもし杉原ですが・・・あら?あなたは・・・はい、はい・・・」

噂をすればなんとやら、彼からコンタクトを取ってくるなんて・・・


閃きました。
「いいですか?今からこっちに来てもらえませんか?それから・・・」


今から作戦開始です。

「奥様!」
「あら?どうしたの慌てて?」
「頑張って旦那さまを出し抜きましょう!?」

それからさっき彼に話した事とまったく同じ内容を奥様にも伝える。

「なかなか面白そうね」

流石話がわかります。

「では早速お嬢さまにも・・・」
「待ちなさい」

奥様の一声に思わずふりかえる。

「真奈美にも黙っておきましょう・・・面白くなりそうね〜♪」

この人・・・自分の娘で遊ぼうとしてるんじゃ・・・
そんな考えが浮かびました。


「それでは気をつけて行ってきてくださいね」
「はい・・・」

やっぱりお嬢さまは元気がない様です。
結局あれからお嬢さまには
出来る限りのおしゃれをしといてくださいとしか言ってません。
ですが・・・うふふ、結局私もお嬢さまで遊ぼうとしているみたいです。

「もうこんな時間だ・・・香里、真奈美、早く車に乗りなさい」
「ちょっと待ってて、もうそろそろだから♪」
「は?何を言ってる・・・」

旦那さまが再び声を出した瞬間、
強烈な光があたりを照らしました。

『来た!!』

思わず叫ぶ(しかもハモって)私と奥様。
旦那さまは発光場所のすぐ近くだったため
確実に視力を失っているはず。
逆に車の反対側にいた私達はほとんど影響はない。
そんな私達の所まで一つの影が近づいて来る。

「きゃ!!」

お嬢さまが悲鳴を上げる・・・
確かに何も知らない、ましてや他人よりも臆病なお嬢さまが
こん目にあったら悲鳴の一つも上げますね・・・

「真奈美、僕だよ僕」
「え?え、え?なんであなたが・・・?」
「あれ?聞いてないの?」
「何をですか?」
「どうでもいいから早く行きなさい!それとこれは餞別!」
「は、はい!ありがとうございます!!行くよ、真奈美!!」

お嬢さまの返答を待たずして
彼は所謂『お姫さま抱っこ』をして走っていきました。

どうやら作戦道理いったみたいです。
旦那さまが一人離れたところで発光物(この場合はマグネシウムでしたが)
を使用して視力を奪いその隙に彼がお嬢さまを連れて逃げる・・・
軍隊や警察が建築物に突入するときに使うような作戦を簡単にしたものです。
それほど難しいわけではありませんが
彼のやり方は無駄がまったくありませんでしたね。


「そろそろマグネシウムも燃え尽きる頃ね」
「そうですね・・・」

私もお嬢さまもすぐに視線を光のある方に戻しました。
旦那さまも視力が戻り始めたみたいですが動けそうにありません。

「あなた、大丈夫?」
「な、な、なんの真似だ今のは!?」

あらら、今のやり取りを聞いていたんでしょうか?

「もしかして〜今の会話聞いてました?」
「あたりまえだ!!それより何故真奈美を引き留めなかった!?」
「だって、これを計画したの私達ですもの♪」
「達・・・?洋子くん・・・君もか・・・?」
「もう!あの子が選んだ人ですもの。少しは信じなさい!」
「だからと言って目の前であんな事されて黙っていられるか!!
 しかも2回も!!」
「うるさいわね〜!これ以上しつこいようなら!」

奥様はそれだけ言うと
何処から出したかオレンジ色のジャムが塗られたトーストを手にし
旦那さまの口に押し付けた。

「むぐぅ!!!!」

バタン
・・・あら?倒れた・・・?

「・・・このジャム・・・パワーアップしてる?」
「あの〜奥様?私が見た限り痙攣まで起こされているようですが・・・?」
「大丈夫よ、一応食品だから死ぬような事ないわ・・・多分」
「一体なんですか?それ?」
「友達夫婦の家に伝わる謎ジャムよ・・・」
「謎?それって一体・・・」
「言葉通りよ」
そう語った奥様の目もどこか泳いでいる・・・
聞かないほうが身の為だ・・・
そう思いました。

「けど名雪が送ってきたこれも意外と使えるのね」

食品としてじゃないけどね・・・
そう私も思ったし奥様の目も言っていた・・・


おまけ


ここまでこれば大丈夫かな・・・

「こんばんは、真奈美」
「はい・・・こんばんは・・・」

そして僕はすぐに気づいた、真奈美の顔が真っ赤だということに。

「真奈美、顔が赤いけど熱でもあるの?」
「いえ・・・そうじゃなくて・・・恥ずかしい・・・」
「え?」

廻りを見渡す。
廻りの視線はほとんど全て僕達の方に向けられてた。
・・・殺気も混ざってるのは気のせいだよな。
うん、そういうことにしておこう。

「ご、ごめん・・・」

真奈美をゆっくりと下ろす。

「けど驚きました、あなたがあんな事するなんて・・・」
「え?真奈美・・・もしかして聞いてないの?」
「何をですか?」
「この計画・・・洋子さんが考えてくれたんだけど」
「そうなんですか・・・」
「あ、そうだ真奈美」
「はっ、はい、なんですか?」
「誕生日、おめでとう」
「覚えててくれたんですか?」

真奈美の顔がパァ〜と明るくなった気がした。

「うん、プレゼントの用意は出来なかったけどね」
「そんなものいりません・・・
 私は、あなたが来てくれただけで十分ですから・・・」

真奈美の大きな目からまた涙が溢れてくる・・・
僕は何回この娘の涙を見てきたんだろう‥‥

「クスン・・・ごめんなさい・・・また・・泣いちゃって・・くすん」
「いいよ・・・嬉しくて泣いてもらってるんだから・・・けどね」

ぎゅっ、て真奈美を抱きしめる。

「真奈美が泣いてるときは・・・
 こうやって抱きしめてあげたいな・・・
 それくらいしか出来ないし」
「はい・・・私も・・・その方が嬉しいです」

真奈美が顔を上げる。
僕は涙の溜まった目尻にそっとキスをしてやる。

「はぅ、くすぐったいです・・・」
「ごめんごめん、ねぇ、今からデートしない
 って言うかデートするために来たんだっけ」
「うふふ、そうですね。時間も時間ですしお食事でもしませんか?」
「そうだね、今日は僕のおごりだよ」
「それは悪いですよ・・・」
「大丈夫だよ、真奈美に会えなかった日はほとんどバイトだったし
 足りなくなったら真奈美のお母さんがくれた餞別も使うよ」

そう言ってさっき受け取った封筒を開けてみる。
そこには数枚のお札とともに
『今夜一晩仲良くしてね、
 特に君、優しくしてあげないとダメだからね。
 それと今日は安全日だけど避妊はちゃんとする事
          真奈美の母より』
と書いたメモが有った・・・
おしまい♪

例によってあとがき

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