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真奈美
「おはようございます」

洋子
「おはようございます、お嬢様」

真奈美
「おはようございます、洋子さん」

真奈美の母
「おはよう真奈美、今日からどうするの?」

真奈美の大学では今日から夏休みになっている。
真奈美は地元、高松の大学に進学した。
上京も考えたが体力的なものを考慮して
上京はおろか大阪や京都も行かず高松にとどまった。
それが功を奏し真奈美は大した病気もせずに3年間を過ごしてきた。

真奈美
「まだ‥‥決めてないです。」

真奈美の父
「今年は行くのか?軽井沢に‥‥」

杉原家では夏の避暑に軽井沢に行くのだ。
毎年の恒例行事になっている。

真奈美
「まだ‥‥ちょっと分かりません。」

真奈美の父
「そうか‥‥」

洋子
「お嬢様、エアメールが届いてますよ。」

洋子の声を聞いて真奈美はあわてて玄関へ行った。

真奈美の父
「真奈美も恋する年頃だからな‥‥」

真奈美の父親はそういって寂しそうに笑った。
一応、親公認の仲らしい。

真奈美の母
「そうですね‥‥」

真奈美の母親もこれはフォローできないようだ。
苦笑いをして相づちを打った。

真奈美
「洋子さん。」

洋子
「はい、お嬢様。エアメールです。」

真奈美
「ありがとう。」

洋子
「また、あの彼からですか?」

真奈美は裏を見て「はい」と答えた。

洋子
「あぁー暑い。暑い。」

洋子があおぐふりをする。

真奈美
「もう洋子さんったらぁ」

洋子
「ふふっ朝御飯はまだいいですね。」

洋子なりの気配りでもある。

真奈美
「えっと‥‥」

真奈美、元気にしてる?風邪なんかひいてない?僕は元気です。
もう留学してから2年とちょっとが過ぎるなんて早いですよね。
僕はこの休みに日本へ帰ります。
真奈美の所にも行けるかもしれないので行けるようならば連絡します。

真奈美
「‥‥‥」

ドキドキが止まらない。嬉しさで涙が‥‥

真奈美、今月は僕が行った公園で
かわいい小鳥の写真を撮ったんで送りますね。
喜んでいただけたら嬉しいです。
その公園はそんなに広くなかったんですけど‥‥

真奈美
「かわいい。」

その封筒の中には小鳥の写真が10数枚、
そしてエアメールの送り主が写っている写真が1枚入っていた。

真奈美
「は、早く帰ってきてくださいね‥‥
 私は、あなたのことを待っていますから‥‥‥」

真奈美はその写真を抱きしめ
その後壊れ物を扱うかのように丁寧に写真立てに飾った。

‥‥‥‥‥‥

「ごめん。」

「海外留学ですか‥‥‥すごいじゃないですか!」

「でも‥‥」

「それ以上何も言わないでください‥‥
分かっていますから、あなたの言いたいこと‥‥‥。」

しばらくの間会えなくなる‥‥。それは分かっています。
でも、あなたの心配の種にならないように私は笑って送りますね、
あなたのことを‥‥。
あなたが元気にして、励ましてくれたから‥‥‥
あなたにもらった翼だから‥‥‥
せめてもの恩返しです。

「真奈美?」

「あっ、ご、ごめんなさい。‥‥て、手紙は送ってくださいね。」

「手紙は送るよ、月に一度のペースで‥‥」

真奈美には当分の間そうしなければ‥‥
少年はそう思っていた。
そうでもしなければ、いきなりきっぱり別れてしまっては、
真奈美を傷つけてしまうかもしれない。
でも、真奈美も多分忘れていくだろう‥‥
こまめに会いに来た友達のことを‥‥
そしたらやめればいい‥‥手紙も何もかも‥‥

「は、はい。」

自分でも泣かないようにしなきゃ!
とは思っていたのだがやっぱり涙がこぼれてきた‥‥

「大丈夫!真奈美には翼があるよ‥‥その翼で大空へ羽ばたいて!」

「はい‥‥ご、ごめんなさい‥‥
泣かないようにってずっと思ってたんですが‥‥」

「僕は真奈美を泣かせてばっかりだなぁ‥‥」

少年は苦笑いをする。

「で、でも‥‥たくさん笑いました。泣いた数よりもずっと多いです。」

「関西国際空港発○○○行きのお客様4番ゲートより搭乗手続きを‥‥」

少年はわざわざ真奈美にお別れを言うために
自分の家から近い成田空港ではなく関西国際空港を選んだのだ。
そんな心遣いに真奈美は嬉しくて、
でも少しさびしくて切ない気持ちでいっぱいになった。

「もう行かなきゃ‥‥」

「‥‥そうですね‥‥じゃあ、行ってらっしゃい‥‥。」

「うん。じゃあね!」

「あっ‥‥」

ゲートを通りぐんぐん小さくなっていく少年に言えなかった‥‥。
「あなたのこと‥‥好きでした。ずっと待ってますから‥‥」 と‥‥‥‥‥

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