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そして2日後、
真奈美は家の中でそわそわしていた。

真奈美
「あの人が来る‥‥」

何から話そうかな?
どうやって迎えようかな?
などと考えるといても立ってもいられなくなってしまう。

今度はちゃんと伝えてみてくださいね。
真奈美さんがその人を好きなこと‥‥‥‥
届きますよ、その思い

亮太の一言がよみがえってくる。

真奈美
「亮太君‥‥ありがとう‥‥今度はちゃんと伝えますね。
それがどんな結果になっても‥‥私の精一杯の気持ちを‥‥」

この気持ちが真奈美の旅の成果であり
亮太という少年のもたらした勇気かもしれない。

 

ピンポーン

真奈美
「はぁい。」

ガチャッ

‥‥‥‥‥こうして運命の扉は開かれた‥‥
真奈美の将来を決める、大切な一歩が、いま、踏み出された‥‥‥‥。

 

真奈美
「あ、あ、あ‥‥‥‥」

うれしくて緊張して‥‥
今まで考えていた事が真っ白になっていく‥‥。
玄関にいるのは間違いなくあの少年だった。


「あの、杉原‥‥真奈美さんですか?」

真奈美
「はい。あ、あの‥‥翔太さん?」

宮本翔太‥‥あの少年の名前だ。
今まで忘れたことのないその名前‥‥。

翔太
「うん。お久しぶり!真奈美‥‥」

真奈美
「お久しぶりです‥‥。あ、あの‥‥‥‥」

言いたいことがあとからあとから出てくる。
何から話せばいいのか分からないままに真奈美は黙ってしまった。
翔太はその真奈美の様子に優しく微笑んで

翔太
「元気だった?」

真奈美
「はい。」

翔太
「本当に?」

真奈美
「はい。」

翔太
「でも、今日は黙っちゃってるよ‥‥?」

翔太がイタズラっぽく笑う。

真奈美
「もう、長い間会えなかったから‥‥緊張しているだけです。」

真奈美がかわいくほほをふくらます。
いつも変わらない‥‥
何年経っても変わらない‥‥
あのきれいな瞳、優しい気持ち‥‥。

翔太
「良かった。真奈美が元気でいてくれれば‥‥‥
 じゃあ、どうする?これから‥‥‥‥」

真奈美
「あ、あの、い、いつまでここにいるんですか?」

翔太
「真奈美が望むまで‥‥」

真奈美
「えっ?」

翔太
「‥‥っていうのは冗談だけど‥‥」

真奈美
「もう。」

真奈美は「真奈美が望むまで‥‥」
といったときの翔太の真剣な目を見逃さなかった。
何かあったのだろうか‥‥?

翔太
「3日間ぐらいいられるのかな?」

真奈美
「は、はい。そうですか‥‥じゃあ、今日は任せます、あなたに‥‥」

翔太
「任せるって‥‥僕、ここ、ほとんど分からないよ‥‥
 ずいぶん変わっちゃったから‥‥」

真奈美
「そうですね‥‥。」

3年の年月は高松の街を変えた。
この高松の街で変わらなかったのは
杉原山と真奈美の心だけだったのかもしれない‥‥
それほど急変してしまった‥‥。

真奈美
「じゃあ、今日は栗林公園に行きましょう。
 長旅で疲れているでしょうから‥‥落ち着いた場所で‥‥」

翔太
「うん。そうしよう!」

 

2人は湖の前のベンチに腰掛けた。

真奈美
「今年で戻って来るんですか?日本に‥‥」

翔太
「うん。入学すると同時に出ちゃったけど
 どんなに粘っても3年だったみたい‥‥
 本当はあっちで勉強したかったんだけど‥‥」

真奈美
「そうですか!じゃあ、今度はまた会えますね」

真奈美の顔が輝く。
翔太には申し訳なかったが‥‥真奈美は嬉しかった。

翔太
「うん。まだ先の話だけどね‥‥」

真奈美
「楽しみに待ってますね‥‥‥‥」

翔太
「うん。」

湖の風が心地よい‥‥
2年半ぶりのデート。
いつもと同じデートなのになぜか輝いて見える‥‥
何もかもが‥‥

翔太
「2年半ぶりだね‥‥真奈美とここに来るの‥‥」

翔太が遠い目をして言う。

真奈美
「そうですね‥‥」

翔太
「ねぇ、真奈美にとってのこの2年半はどうだった?」

真奈美
「えっ?」

この2年半‥‥
あなたがいなくて寂しかった‥‥
手紙で話していても、あなたはやっぱり遠い存在だった。
不安だった。いつあなたからの連絡が途絶えてしまうかと思うと‥‥
あなたと会えないんじゃないかと思うと‥‥。

真奈美
「あ、あなたに、会えなかったから‥‥
 長かったです‥‥1日1日が‥‥‥‥
 会える約束がなかったから‥‥」

真奈美はそれとなく自分の思いを伝えた。
直に言ったら涙がこぼれてきそうだったからだ。

翔太
「そう‥‥ごめんね。忙しくって‥‥。」

申し訳なさそうな顔をする翔太。

真奈美
「いえ、謝らないでください。
 あなたはこうして会いに来てくれたのだから‥‥」

翔太
「でも、2年であんなレポート作っちゃうなんて、すごいよ、真奈美は‥‥」

真奈美
「あれは‥‥あなたが励ましてくれたから‥‥‥‥」

ほとんどあなたのおかげです。
あなたがいなければ‥‥こんな事できなかったから‥‥
ただの引っ込み思案で人とあまり接しない女の子だったから‥‥。

翔太
「そういってもらえるとうれしいよ、僕も真奈美の役に立てたんだから‥‥
少ないながらだけど‥‥」

翔太が照れて頭をかく。

真奈美
「いえ、でも本当にありがとうございました。
あの言葉‥‥すごい励みだったんです。
‥‥くじけそうなとき‥‥
投げちゃおうと思ったときあの言葉をみると
がんばろうって思えたから‥‥
あの時と同じ‥‥
中学のときに机に残してくれたメッセージと同じ‥‥。
あなたには本当に感謝しています。」

真奈美は驚くほど口数が多かった。
舞い上がっていた。

翔太
「ううん。やったのは真奈美だよ、すべて‥‥真奈美の力で‥‥」

そういった翔太の顔が妙に曇る。
2年半で知らない翔太が増えたにしても
はっきりと真奈美の目には映った。

真奈美
「あ、あの‥‥どうしたんですか?
 さっきから真剣になったり寂しそうな顔になったり‥‥
 何かあったんですか?」

翔太
「えっ?」

翔太は驚いて真奈美をみた。
真奈美は上目遣いに、おそるおそる翔太をみている。
相当真奈美は心配しているのだろう、自分のことを‥‥。
そして、真奈美の目には動揺した翔太が映っていた。
思った通り翔太に何かがあったのだろう‥‥。

翔太
「ううん。何にもないよ!大丈夫!」

明るい笑顔を見せる翔太。
しかしそれもどこか心からの明るさではない、作った物に見える。

真奈美
「そうですか‥‥」

あと2日。まだ時間はある‥‥
後々、聞いて力になれることであればできるだけのことをしよう‥‥。

真奈美
「今日はどうもありがとうございました。」

 

 

そんなこんなでもう帰る時間である。

真奈美
「楽しかったです。」

真奈美は心からお礼を言った。
本当に短い1日だった。いつもより何倍も充実した‥‥。

翔太
「ううん、僕の方こそ‥‥」

真奈美
「それじゃあ、また明日」

翔太
「うん、じゃあね」

 

その夜‥‥‥‥‥

真奈美
「気持ちよかったぁ‥‥。」

真奈美がシャワーを浴びて自分の部屋に戻ってきたところだ。

真奈美
「やっとあなたに会えた‥‥‥‥
あなたに言わなきゃ。私の精一杯の気持ちを‥‥」

でも、いつ?‥‥明日?明後日?
真奈美はふと冷静になった。
明日言ってしまったら
もし、答えはNOだったら楽しいひとときが消えてしまう‥‥。
でも、明後日だと、返事も聞けないかもしれないし
言いそびれてしまうかもしれない‥‥。
高校のときのように‥‥。

真奈美
「それだけは、いやです。絶対に後悔だけはしたくないから‥‥」

明日‥‥
明日、言おう、自分の精一杯の気持ちを‥‥

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