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真奈美
「ここが‥‥‥」

久しぶりに来るフィッシングポート。
少年とは初夏にここに船に乗りに来た。

「えっ?瀬戸大橋なんてよく見ているんじゃないのって‥‥‥
そうですけど瀬戸大橋を下から眺めるのは初めてです。」

「そう、それならよかった。」

そういった思い出もあったのだが真奈美は船に乗る気はなかった。
酔ったらどうしよう?そういう思いが頭を独占している。

「あ、あなたと一緒なら‥‥乗れる‥‥」

そう思おうと思ったが同時に

「真奈美には翼があるよ」

この一言がよみがえってきた。

真奈美
「わ、私、‥‥の、乗ってみます」

そして真奈美はデッキへと向かっていった。

 

真奈美
「ふぅー」

真奈美は大きくため息をついた。さすがに疲れたようだ。

真奈美
「一人で‥‥船に乗れた‥‥」

真奈美は疲れた中でもある種の感動と興奮を覚えていた。
疲れも飛ぶようなそんな興奮である。
それがどこからどうやってきたのかは分からなかったが‥‥‥
もしかしたら少年と見たものと同じ景色に出会えたからかもしれないし、
少年の一言により乗ることができたからかもしれない。

真奈美は船と瀬戸内海に軽く一礼して歩き出した。
もう日は落ちかけている。今日はもう帰ろう‥‥時間はまだあるのだから‥‥。

 

その帰り道‥‥‥
真奈美は一人の少年とぶつかった。

真奈美
「あっ、すいません」

真奈美はとっさに謝った。

少年
「‥‥」

その少年は何も言わなかった。
ただ真奈美をじっと見ている。

真奈美
「だ、大丈夫でしたか‥‥」

もしかしてその少年に怪我があるのかと思いおそるおそる聞いてみた。

少年
「‥‥ゆ、有紀ちゃん」

その少年はそういって倒れてしまった。
真奈美は最初おろおろしたが
真奈美の家が目と鼻の先にあったのでその少年を連れて帰ることにした。

 

少年
「‥‥」

何時間かが経った頃その少年は目覚めた。
状況が把握できていないようできょろきょろしている。

真奈美
「あっ、あの、大丈夫ですか?」

小鳥は何度も助けたこっとはあるが人は初めてだ。

少年
「‥‥」

その少年は真奈美を見てぼーっとしている。
歳は14か15ぐらいの小柄な子だ。
小柄でなければ真奈美が連れてくるなんて事は不可能であるが‥‥。

少年
「有紀ちゃん。」

真奈美
「えっ?」

少年
「有紀ちゃんでしょ!」

真奈美
「えっ?」

困惑する真奈美。
すると少年は申し訳なさそうに頭を下げた。

少年
「ごめんなさい。あなたがあまりにも有紀ちゃん‥‥
一年前まで一緒にいた女の子に似ていたから‥‥‥それで、ここは‥‥」

真奈美
「え、えっとですね‥‥」

真奈美は少年を拾ったときの一部始終を話した。

少年
「そうだったんですか‥‥ご迷惑をおかけしました。」

消え入るような声で謝る少年。なんだか真奈美の方まで申し訳なくなった。

真奈美
「いえ、いいんです‥‥
 あっ、そういえば私を見て有紀ちゃんって言ってましたよね?」

少年
「はい。」

といって少年は1枚の写真をとりだした。

真奈美
「‥‥」

真奈美はこの写真を見て驚いた。
自分がそこにいたのだから‥‥
いや、自分ではない。
第一こんな場所は知らないしこんな服装をしたこともない。
しかし、自分ではないにしてもあまりにも似すぎる女の子がその写真にはいた。

真奈美
「本当にそっくり‥‥」

少年
「すいません」

真奈美
「今度会ってみたいですね!」

なるべく雰囲気を盛り上げようと真奈美は極力元気な声で言った。

少年
「‥‥‥」

悲しそうな顔をする少年。

真奈美
「‥‥」

真奈美もその少年の顔から何が起こったのかを察知した。
少なくとも少年の近くにはいないことを‥‥

真奈美
「ごめんなさい。」

少年
「‥‥あ、名前がまだでしたね。僕、大野亮太(おおの りょうた)といいます。」

真奈美
「私は‥‥す、杉原真奈美です。
あ、あの、ど、どうしてあんなところで倒れちゃったんですか?」

亮太
「有紀ちゃんの‥‥

探さないで、夏休みが終わる頃には戻ってきます

という置き手紙を見て‥‥
有紀ちゃんのいない生活に耐えられなくて‥‥
事の真相を知りたくて‥‥
ふらふらと旅をしていたらここまで‥‥‥」

真奈美
「そうですか‥‥」

真奈美はこの少年に興味を持った。
どこか自分に似ている。

もしかしたら好きな人と別れた‥‥それだけが共通点なのかもしれないが。
だから、この少年を応援しようと思った。
この亮太という少年の旅の手助けでもできれば‥‥

真奈美
「そうだ、高松にいる間はここに泊まってください」

亮太
「でも‥‥」

真奈美
「何なら観光案内でもしましょうか?
もしかしたら人の多いところにいるかもしれないですから‥‥」

自分の旅に連れが加わってもいい。
私は何度でも確かめるチャンスはあるのだから。

亮太
「でも‥‥‥‥すいません。それではお世話になります。」

亮太は真奈美の包み込むような優しい視線を受けて静かに頭を下げた。

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